熱画像カメラは物体の発する熱エネルギーを検知/温度換算し、画像化することで温度分布の状態を可視化・解析。広範囲の温度をリアルタイムに確認できるため、設備点検や材料評価、医療、環境などさまざまな分野で活用が可能です。
オザワ科学では、「携帯形熱画像カメラ」や「熱画像装置」など用途に合わせた熱画像カメラを各種取扱い、お客様の課題解決のお手伝いをしています。
1.熱画像カメラとは?
地球上のすべての物体は目に見えない赤外線を放っており、温度が高いほどそのエネルギー量は大きくなります。熱画像カメラはこの赤外線を検知し、量に基づいて温度を可視化。温度の高低を色別表示することで熱の分布をわかりやすくしています。
<熱画像カメラのメリット>
・高温対象物、動きのある物体など測定したい対象にふれずに温度がわかる。対象物の形状を保つことができ、安全性も高い
・暗い場所や煙の中など、視界が悪くても測定できる
・定点ではなく面で温度がわかる。温度分布をイメージとして捉えられる
・応答速度が速い
物体の表面温度を非接触で測定、リアルタイムに熱の分布を可視化できるため、接触式で測定できない高温対象、離れた物体や場所、動きのある物体にも活用できます。また暗闇での撮影も可能で、熱画像カメラは放射温度計の一種です。
- スポット放射温度計
スポット(点)で温度を計測します。主に生産ラインで使用され、温度精度、再現性を重要視する計測に向いています。
- 走査型放射温度計
ライン(1次元走査型)で熱を計測します。コンベアなどの生産ラインで搬送される物体の、幅方向の温度測定に向いています。
- 熱画像カメラ
イメージ(2次元)で熱を計測表示します。広く面で熱分布を確認できるため、点検や診断・研究などさまざまな用途で活用されます。
スポット放射温度計はスポット1点の温度を表示しますが、熱画像カメラは全体の各ピクセル温度を表示します。
熱画像カメラが使われるシーン
「熱」は動力として活用したり、素材加工に使ったりできる有用なエネルギーです。世の中には未利用熱がたくさんあり、それらを蓄熱や熱電変換などに活かす研究開発も盛んです。
一方で、熱によって機器の性能不良や故障/事故、自然環境に悪影響を及ぼしたり、場合によっては私たちの安全が脅かされたりすることもあります。
熱画像カメラは「熱」の状態を把握し、私たちが「熱」とうまく付き合っていく、またより良い製品・環境つくりのために欠かせない測定なのです。
<熱画像カメラが使われる例>
- 設備点検
故障の原因につながる異常な発熱がないか、製造工程を監視。生産性に影響を及ぼす製品の熱ムラや異物の有無の確認、生産ライン機器の異常過熱状況の診断などにも活用されます。
- 素材発熱/評価確認
吸湿発熱繊維など新素材の研究、温度変化による特性の評価などにも熱画像カメラは欠かせません。
- 人/動物/植物
空港や施設入り口などに設置されているサーモグラフィーに代表される体温変化の確認、動物の体調管理、植物の栽培における環境温度や日照解析など。
- 建築
家屋の雨漏り部分の確認、日照状況や空調の効き具合、外壁の断熱性能の評価や冷暖房設備の効率化など、建築分野でも広く熱画像カメラが使われています。
- 環境
再生可能エネルギーに注目が集まる今、ソーラーパネルの性能評価や効率的な設置、また地球温暖化が進むなか、安全な作業環境の確保や太陽光のインフラに及ぼす影響調査などでも、熱画像カメラが活用されます。
- 医療
皮膚温度分布や変化を知ることで、医師による疾患の診断をサポート。治療効果の判定にも熱画像カメラが使われるなど、医療分野にも貢献しています。
- 安全
迅速・正確・安全に熱の状況を知ることで、故障や事故を防止します。製造の中断や生産ロス、停電、火災、致命的な障害に伴う多大な損失を回避することが可能です。
- 品質(製品保証)
製品の耐熱評価や生産工程の適正な温度管理など、熱画像カメラの結果が製品保証に使われることも少なくありません。
- 研究分析
研究プロセスの観察や解析をするだけではなく、熱分布評価をもとに研究が進むことも。先端分野ではより早く、より精細に、より詳細な温度に対応するニーズが高まっています。
熱画像カメラの測定方法
熱画像カメラは温度計測だけではなく、熱分布を瞬間的に可視化できるカメラです。持ち運びができるハンディタイプ、固定型ともに細かな使い方の違いはありますが、通常のカメラと同じような取り扱いになります。
計測条件や環境条件を設定の上、適切な距離を取りながら装置を対象物に向けて撮影をすることで対象の温度が画像とともに測定できます。画像は測定器のモニターに映し出したり、外部出力機能によってパソコンに表示、録画、ソフト解析などをすることも可能です。
2.熱画像カメラの代表的な装置
熱画像カメラに使われる装置は、主に携帯して使う「携帯用熱画像カメラ」タイプや、現場監視/研究用途に固定して利用する「熱画像装置」タイプがあります。それぞれの特徴や使用例を詳しく見ていきましょう。
携帯用熱画像カメラ
持ち運びを想定した携帯形熱画像カメラは、グリップが付いていて片手で持って測定できるタイプや、一般的なデジタルカメラのような形状で、携帯性をより高めたタイプなどがあります。
撮影したデータはSDカードなどのメディアに保存し、パソコンでより大きく表示して確認したり、ソフトウェアなどを使って解析したりすることも可能です。
携帯形熱画像カメラの利用シーンとしては、建物の断熱診断や雨漏り箇所の発見、ソーラーパネルの点検、産業機械のメンテナンスや定期的な見回りなどが挙げられます。
熱画像装置
現場に固定して使う熱画像装置には、幅広い用途で使えるスタンダードなタイプから、耐環境仕様となっているもの、発熱監視など機能を特化したものなどがあります。耐環境仕様では、温度や粉塵などが厳しい環境でも使用が可能です。
温度測定したい場所に固定し、プロセスをモニタリングしたり、温度/熱分布の計測結果から、生産ラインの改善や品質改善、トラブル防止などに使用されたりします。使用シーンとしては工業、農畜産業、設備管理、環境、各種研究など多岐にわたります。
熱画像装置の代表的なものとしては、チノーの「CPA-Lシリーズ」、「TPシリーズ」などがあります。
3.熱画像カメラのスペックと注意点
熱画像カメラはラインナップの幅が広いため、評価したい内容を明確にした上で装置を選ばなければ、オーバー(アンダー)スペックとなってしまいます。
評価したい内容によって、確認すべきスペックをあらかじめ覚えておきましょう。
<熱画像カメラの選定時に確認したいスペック>
- 測定温度範囲
熱画像カメラで測れる温度の範囲。低温では-40℃、高温では2000℃ぐらいまで測定できる機種がありますので、対象温度に合わせて選びましょう。
- 画像解像度
画像解像度が高いほど、より精細に温度分布が見て取れます。電子部品など小さな対象の温度を見るのか、生産ラインの大きな部品の発熱を見るのかで、必要な画像解像度は異なります。測定対象までの距離と対象物のサイズも必要な情報です。
- フレームレート
1秒間の動画が何枚の画像で構成されているかを示す数値。フレームレートが高いほどなめらかな動画になります。動きのある対象の測定は、ある程度フレームレートの高い機種を選びましょう。
- 空間分解能
「mrad」で表わされる1画素が見ている角度を表す単位で、測定距離によって素子のとらえる大きさが決まります。適切な距離をとらずに測定すると誤診の原因になります。
- 温度分解能
判断できる最小温度差のこと。より細やかな温度変化が知りたい場合は、温度分解能の数値が小さいものを選びましょう。
熱画像カメラで知っておきたい注意点
熱画像カメラは、対象の表面温度の計測であり内部温度の測定はできません。目視では見えていても赤外線の波長では透過していないので、ガラス・アクリル越しでの測定は不可能です(透過できる窓材はあります)。
また、物体が放つ赤外線の量は、材質や表面の状態に依存します。物体からの熱放射のしやすさを0から1で表した数値を「放射率」と言い、測定する素材に適した放射率を設定する必要があります。なお、光沢金属は放射率が低いため黒体テープやスプレーで処理した上で測定をしましょう。
熱画像カメラのニーズ
リチウムイオン電池や半導体、電子部品/基板、新素材/材料の研究開発においては、どのように熱が発生するか、熱によって状態や組成がどう変化するかといった情報が欠かせません。
さらに、自動車業界では「EV化」や「CASE」など大変革を迎える中、車載向け電子部品の製造・評価においては世界基準の「AEC規格」を満たす必要もでてきており、熱画像カメラによる性能評価のニーズも高まっています。
最近は地球温暖化にともなう平均気温の上昇、甚大な災害の頻発、エネルギー分野においても熱画像カメラの重要性が増しています。災害時の救助活動でも熱画像カメラは活用されています。
4.まとめ
このように、「現場あるところに熱画像カメラあり」と言ってもいいほど用途が幅広い熱画像カメラ。研究開発/評価の分野において、点から面への測定ニーズが高まっています。
測定対象を明確にすることで、お客様でも必要なスペックをある程度絞り込むことは可能です。
一方で、実際に測ってみることで、より自社のニーズに合った機種を選ぶことができるのも事実。オザワ科学ではデモ機の準備や、周辺機器を含めた複合提案できるのも強みです。
お客様への納入事例も豊富ですので、カタログでは読み取れない、実績や経験値に基づいた情報も有益になることでしょう。
熱画像カメラについてのご要望、ご相談などがあれば、課題解決に向けてご提案させていただきます。当社担当までお気軽にお問合せください。