Share

~研究開発を取り巻く環境の変化~

近年、研究開発の現場では"成果の質"と"スピード"の両立が強く求められるようになってきました。かつては装置による実験が中心でしたが、今ではシミュレーションやAIによる予測がその補完・強化手段として一般化しつつあります。これは研究者にとっての選択肢を増やすと同時に、必要とされる計算資源が飛躍的に増加していることを意味します。​​

こうした背景の中で、研究開発を根底から支えているのがHPC(High Performance Computing:高性能計算)です。本稿では、このHPCがなぜ今、多様な研究開発分野において必要とされているのかをご紹介します。

Index 目次

    1. HPCとは? なぜ今、さまざまな研究開発分野に必要なのか

    HPCとは、大量の計算処理を高速に行うためのコンピューティング環境です。スーパーコンピュータをイメージされるかもしれませんが、近年では研究室単位や企業の開発チームでも導入可能なスモールHPC”の選択肢も広がってきました。

    通常の一般的なPCと比較して、HPCは以下のような点で大きな優位性を持ちます。

    〇演算性能
    HPCは多数のCPUコアや高性能なGPUを搭載でき、並列計算による高速な処理が可能です。たとえば、一般的なPC1日かかるシミュレーションを、HPCでは数時間で完了することもあります。

    〇メモリ容量
    大規模なデータ処理では一時的に数百GB以上のメモリが必要になるケースもあります。HPCはこのような用途に対応できる大容量メモリを備えることができます。

    〇安定性と拡張性
    長時間のバッチ処理や連続的なAI学習ジョブでも安定した稼働が可能で、後からGPUやストレージの増設も容易です。


    たとえば、分光機器や質量分析装置から得られる大容量データを処理する際、一般的な
    PCでは処理に時間がかかったり、解析途中でメモリ不足に陥ることがあります。また、AIを活用した画像分類や異常検知なども、繰り返し学習と検証を要するため、大量の計算資源が必要です。

    こうした状況において、HPCは研究の生産性を劇的に向上させる重要な基盤となるのです。

    2. 具体的なユースケース

    材料開発

    金属材料や高分子材料の分子構造を第一原理計算や分子動力学法により詳細に解析し、熱伝導率や引張強度などの物性を予測。試作前のスクリーニングによって開発期間とコストを大幅に削減。

    医薬品開発

    HPCを用いて数十万数百万種類の化合物に対するドッキングシミュレーションを短時間で実施。標的タンパク質との相互作用を予測し、候補化合物の絞り込みを高速化。

    電子顕微鏡や細胞画像の解析

    ディープラーニングによる分類やセグメンテーション処理を大量の高解像度画像データに対して並列に実行。がん細胞の検出や組織分類など、医用画像処理に活用。

    環境モニタリングと予測

    数百台のセンサーから取得される気温・湿度・VOCなどのデータをリアルタイムに集約・処理し、異常値を検知。加えて、AIによる環境変化予測モデルの構築にも活用。

    CAE解析

    自動車部品における耐衝撃・振動解析、エンジン冷却系の流体解析、電子機器の熱伝導設計などにおいて、物理試験を行う前段階での仮想評価を実現。複雑な構造物のメッシュ分割と並列解析により、設計サイクルを短縮。

    AI活用

    製造ラインの外観検査AIにおける学習データ(良品・不良品画像)の高速分類とモデル学習を実行。教師なし学習による異常検知アルゴリズムの構築にも対応。
    医療・バイオ分野では、ゲノム配列データや臨床試験データから予測モデルやパターン抽出を行い、新規診断技術や創薬支援に貢献。

    これらの例に共通するのは、いずれも従来の実験プロセスに対してHPCが「加速装置」として機能している点です。実験機器だけでは不十分な、あるいは時間とコストがかかりすぎる問題に、HPCが新しい解決策を提供しています。

    3. HPC導入におけるポイント

    HPCを研究開発の現場で活用するためには、使用するアプリケーションや研究目的に応じて最適なハードウェア構成を検討することが最も重要です。
    特にオンプレミス環境での導入を前提とした場合、以下のような視点が求められます。

    (1)ソフトウェアとの親和性を重視した構成設計

    CAE解析やAI学習など、利用するアプリケーションごとに最適CPUGPUの構成、必要なスレッド数やクロック数が異なります。HPCは、こうしたソフトウェアに最適化されたモデル構成を個別に設計することが可能です。

    (2)GPUやメニーコアCPUの柔軟な組み合わせ

    AI用途ではGPUの搭載数や性能が、CAE解析では高クロックなCPUや広帯域メモリが効果を左右します。HPCなら、こうした多様な要求に対し柔軟に対応できる構成が実現可能です。

    (3)I/O性能とストレージ構成の最適化

    大規模な解析データを扱う場合には、ストレージのI/O速度や並列書き込みの効率も処理全体に大きく影響します。用途に応じたNVMe SSDRAID構成の採用など、データアクセスに最適なストレージ設計もHPC導入の鍵です。

    (4)拡張性と持続的な運用設計

    将来的な研究テーマの変化や解析規模の増大に備え、拡張スロットや追加ノードを想定した構成にすることで、長期的に使える計算基盤を構築することができます。


    これらの設計は、
    HPC専門メーカーの技術支援により、要件に応じたカスタム提案が可能です。オザワ科学は、お客様のニーズを把握し、最適なHPC構成を提案できるパートナーとの橋渡しを担うことで、より付加価値の高い提案が可能となります。

     

    各種モデル

    4.オザワ科学が提供する新しい価値

    これまで理科学機器といえば装置や計測器が主でしたが、そこから得られる膨大なデータを“活かす”段階までをサポートするのが、これからの商社の新しい役割です。HPCはまさにその中核を担います。

    「実験機器で得られるデータをさらに有効活用したい」

    「AIを研究に取り入れたい」

    「あるいはシミュレーションによって試作コストを削減したい」

    このようなニーズに対し、HPCは非常に有効な手段です。

    HPCに関心があっても「何から始めたらよいかわからない」「導入に必要なスペックや環境が不明」といった声も少なくありません。オザワ科学は、お客様の研究課題を把握したうえで、信頼できるHPCメーカーとの連携により、最適な解決策をご提案する役割を担います。

    HPCは実験とシミュレーション・AIをシームレスにつなげ、研究の成果をより早く、より確実に導くための“インフラ装置”です。今後の研究開発の加速に、ぜひご活用をご検討ください。

    5.まとめ

    HPC(高性能計算)は、単なる計算速度の向上にとどまらず、研究開発の質を根本から変革する存在です。シミュレーションやAI活用の進展により、実験と仮想検証、そして予測の連携がますます重要になってきています。HPCはそれを可能にする“研究開発の加速装置”とも言えるでしょう。

    計測機器や分析装置の高度化により生まれる膨大なデータを、いかに高速に、いかに的確に処理・解析するか。この問いに対する現実的な解として、HPCはすでに多くの先進研究現場で成果を上げています。

    HPCは今後、研究テーマの高度化・多様化に伴い、より広範な分野での導入が進んでいくと考えられます。研究現場の皆様にとっても、計算というインフラの整備が、新たな発想とブレイクスルーを生む土台となることでしょう。

    本稿が皆様の研究開発におけるHPCの可能性を考える一助となれば幸いです。

    6.ご提案資料

    ▶本稿に関わる資料データでございます。是非ご参考ください。

     

     

     

     

     

     

     

    7.お問合せ

    ご紹介した製品以外にも、お客様に役立つソリューションをご提案いたします。
    研究や開発にてお困りの際には、オザワ科学へお気軽にご相談ください。

    CATEGORY

    TAG

    SEMINAR