Share

多種多様な材料の成分から、無機成分を測定する無機分析。
食や環境の安全を担保するため、また製品の性能を高めるためにも欠かせない分析手法です。
オザワ科学ではさまざまな無機分析装置を取り揃えています。

無機分析は、試料の状態により装置を選択します。固体試料は蛍光X線分析装置やSEM-EDSなどを使用し、液体試料は原子吸光光度計やICP分析装置などを使用するのが一般的。今回は、原子吸光光度計やICP分析装置の原理や用途をご紹介します。

Index 目次

    1.無機分析とは? 

    物質は大きく、「炭素(C)」を含む「有機物」と、それを含まない「無機物」に分けることができます。

    有機物はもともと生物由来の物質を指したもので、炭素を含む化合物です。生物由来のタンパク質などのほか、ペットボトルやエタノールといった人工的に合成された有機物があります。一方の無機物は、炭素以外の元素で構成される化合物と、一部の炭素化合物を指し、水や食塩、鉱物が例に挙げられます。

    無機分析とは、材料の成分から無機物を測定するもので、無機物の定性(何が含まれているか)、定量(どれぐらい含まれているか)を知ることが目的です。食品や環境といった安全に関わる分析や、半導体など工業分野の性能向上などに使用されます。また、製品や材料を出荷、受入れの際に含まれる成分や量を確認する用途でも使われます。

    <炭素(C)を含む無機物もあり>

    一般的に炭素(C)を含む化合物を有機物と言いますが、炭素(C)を含んでいても無機物に分類されるものもあります。無機物が高温環境でも燃えないという特徴がある一方、有機物は炭素と水素を主成分とするため、主成分が酸素と結合して燃えます。ダイヤモンドのように炭素だけの特異な結晶構造を持ち、酸素と燃焼反応を起こさない物質もあります。そのため、ダイヤモンドや二酸化炭素そのものは、炭素(C)を含んでいても無機物に分類されます。

    2.無機分析が行われるシーン・業界

    無機分析装置の使用例をご紹介します。

    • 食品の栄養成分表示

    容器包装に入れられた一般用加工食品及び添加物には、食品表示基準に基づいて、栄養成分の量と熱量の表示が義務付けられています。これを「栄養成分表示」と言い、無機分析装置を使ってナトリウムやカリウム、マグネシウム、リン、亜鉛などが測定されます。

    • 環境水中の有害元素の分析

    環境省が定める「環境基準」に基づき、河川や湖沼について水質調査をする際は分析項目ごとに定められた法令により、無機分析装置を使った成分分析が行われます。ヒ素やカドミウム、鉛、水銀、六価クロムなどの濃度は、河川や湖沼の安全を管理するために欠かせない数値です。

    • 排水中の鉛分析

    公共用水域及び地下水の水質汚濁の防止を目的として、水質汚濁防止法が定められています。特定施設を有する工場または事業場(特定事業場)から排出される水は、排水基準以下の濃度で排水する必要があります。排水基準違反が処罰の対象となるため、無機分析装置を使って排水中の鉛の量などが測定されます。

    • リチウムイオン電池の分析

    リチウムイオン電池は、電解液の中の正極と負極の間をリチウムイオンが移動することで、充電や放電を行う二次電池です。小型で耐久性があり、スマートフォンや自動車の電動化に欠かせない製品です。材料の受入れ時に不純物が混ざっていないかの検査や、製造工程における元素の分散状態を確認する際に、蛍光X線分析装置やSEM-EDSが使われています。

    • ゼラチン中のクロムなどの分析

    コラーゲンというたんぱく質から作られたゼラチンは、食用のほかにも、医薬用、工業用の用途があります。過去に海外の医薬品用カプセルから安全基準を超えるクロムが検出されたこともあり、無機分析装置を使ったゼラチンの純度試験でクロムや鉄、亜鉛の分析が規定されています。

    3.無機分析で行われる代表的な2つの手法

    無機分析には複数の手法がありますが、目的や用途によって使い分けられます。なかでも代表的な手法が、「原子吸光分析法」と「ICP分析法」です。

    原子吸光分析法は溶液試料中の無機元素の濃度を測定する方法で、幅広い分野で使われています。ICP分析法は「発光分光分析法」と「質量分析法」があり、前者は溶液サンプルを発光させ、色によって含有する金属を測定し、後者はイオン化された原子を質量分析計に入れて測定します。

    原子吸光分析法は特定の金属元素の測定に適しており、比較的コストが低いですが、測定濃度範囲が限られます。一方のICP分析法は比較的コストが高いですが、広範な元素の分析に使用でき、多くの元素を同時に測定できる利点があります。どちらの方法を選ぶかは、分析対象や予算、試料の濃度、分析時間などに応じて検討する必要があります。

    原子吸光分析法

    偏光ゼーマン原子吸光光度計  : 日立ハイテクサイエンス

    原子吸光分析法を応用した原子吸光光度計は、金属元素の濃度を分析する装置です。熱エネルギーを加え原子化された原子が光を吸収する性質を利用し、吸収された光の量から測定元素の濃度を算出します。

    原子化部には、炎を使う「フレーム法」と電気を使って原子化する「グラファイトファーネス法」の2種類がありますが、ICP分析法より比較的安価で、幅広い分野で活用されています。水質調査や排水試験などの環境分析で多く使われています。

    原子吸光光度計は、金属元素の吸収以外の原因によって分析線が減少するバックグラウンドを考慮することが重要です。バックグラウンドの補正方法として代表的なものに「D2補正法」と「偏光ゼーマン補正法」があります。

    • D2補正法

    D2(重水素)ランプでバックグラウンド、HCL(ホロカソードランプ)で原子吸収とバックグラウンドの合計を測定し、その差異で原子吸収の吸光度を算出します。カバーできる元素に限りがあり、2つのランプ光量が安定するまで待ち時間が必要です。

    • 偏光ゼーマン補正法

    HCL1本でバックグラウンド補正を行う方法です。HCLのエネルギーが変動してもベースラインは常に安定するため、ランプ点灯後すぐに測定が可能です。また、D2補正法に比べて全元素をカバーできるのも特徴です。

    原子吸光光度計の代表的なものとしては、日立ハイテクサイエンスの「ZA3300」(フレーム法)、「ZA3700」(グラファイトファーネス法)、「ZA3000」(フレーム法/グラファイトファーネス法)があり、いずれも偏光ゼーマン補正法が採用されています。

    <フレーム法とグラファイトファーネス法>

    「フレーム法」と「グラファイトファーネス法」は、試料濃度や溶媒、分析時間、予算で選択します。

    フレーム法は手軽で素早い分析が可能です。一方、試料濃度はグラファイトファーネス法よりも高くなる場合があります。

    グラファイトファーネス法はフレーム法より検出限界が低く、微量元素の分析に適しています。ただし操作が複雑であるため、より高度な分析技術が必要になります。

    ICP発光分光分析法、ICP質量分析法

    高分解能ICP発光分光分析装置 : 日立ハイテクサイエンス

    ICPはInductively Coupled Plasma(高周波誘導結合プラズマ)を略したもので、「発光分光分析法」と「質量分析法」があります。原子吸光分析法よりも低濃度が検出できるため、環境分野とともに、工業製品の品質管理でも幅広い分野で活用されています。

    一方で原子吸光分析法よりコストが増えることが多く、同時に測定する元素数などによって機器選定することが重要です。

    • ICP発光分光分析法(ICP-OES)

    液体にした試料に外部からプラズマのエネルギーを与えてイオン化し、生じる発光現象を測定することで、含有する無機元素を定性・定量分析することができます。

    分析の流れとしては、トーチの中にアルゴンガスを流し、高周波電流でプラズマを生成。溶液にした試料をこのエネルギーにより発光させた後、分光器内の回折格子(グレーティング)を使い、目的とする元素の波長を選択します。検出器により波長と発光強度をとらえることで、何の元素がどれくらいあるかを分析します。

    なお、測光方式は「ラジアル(垂直方向)」と「アキシャル(水平方向)」があります。分光器の方式は「マルチ型」と「シーケンシャル型」があり、それぞれ目的に応じて選ぶ必要があります。

    • ラジアル(垂直方向)とアキシャル(水平方向)

    分析目的、試料の性質、検出限界などによって選択します。

    ラジアルは光がプラズマの上部から下部(垂直方向)へ収集される方法で、低濃度の分析や定量分析に適しています。

    アキシャルは光がプラズマの中心から外側へ(水平方向)収集される方法で、特定の元素の同定に適しています。

    • マルチ型とシーケンシャル型

    分析対象、試料数、解析速度、濃度範囲、分解能(分析精度)などによって選択します。

    マルチ型は多くの元素を同時に分析する場合に適しており、試料数が多い場合に有利です。

    シーケンシャル型はより高い分析精度が求められる場合や、希土類など特定元素の分析が目的の場合に適しています。

    ICP発光分光分析装置(ICP-OES)の代表的なものとしては、日立ハイテクサイエンスの「PS3500DDⅡシリーズ」「PS7800」(いずれもシーケンシャル型)、「ARCOS」「GREEEN」(いずれもマルチ型)があります。

    • ICP質量分析法(ICP-MS)

    プラズマによって原子化させるのは、ICP発光分光分析法と同じですが、ICP質量分析法ではイオン化された原子を質量分析計に入れて、何の元素がどれくらいあるかを分析します。

    環境、製薬、半導体業界での利用が多く、時代とともに要求が厳しくなる高純度物質の品質管理のための分析法として、今後も拡大が予測されます。

    4.無機分析装置の導入ポイント

    ひとえに無機分析装置といっても、装置によって測定できる試料濃度、スピード、価格が異なるため、幅広い品揃え、製品に熟知したスタッフに相談することが欠かせません。

    オザワ科学では、無機分析装置の品揃えに加えて、技術本部のビフォアーセールス(BS)課に専門知識を持った技術営業スタッフが在席していることも大きな魅力のひとつです。

    また無機分析装置は、製品の出荷検査に使われることもあり、装置のトラブルによる遅れは多方面に影響を及ぼしかねません。そのため、装置納入後のメンテナンスも重要となります。オザワ科学は、メーカーサービスによる技術サポートはもちろん、技術本部のアフターサービス(AS)課による技術サービスで皆様をサポートいたします。

    5.まとめ

    近年、地球規模で環境への意識が高まったり、食の基準が厳しくなったりと、あらゆるシーンで安全・安心を求める声が大きくなっています。一方で、より豊かで快適な未来を拓くためには半導体や新たな材料開発が欠かせません。

    無機分析装置はその多くの現場で必要とされ、今後さらに活用範囲の拡大、高感度・高精度化が求められることが予測されます。

    オザワ科学では、お客様のニーズを汲み取った上で、豊富なラインナップの中から最適な無機分析装置をご提案いたします。商社でありながらメンテナンスもお任せいただけるのもポイントです。

    装置を初めて導入する方から、既に装置をお持ちの方まで技術サポートを提供するオザワ科学へのご相談をお待ちしております。