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熱電特性評価装置 OZMA-1

熱電変換材料の性能を評価する「電気抵抗率」「ゼーベック係数」「熱拡散率」を1つの試料かつ、同一環境下で測定できる装置。オザワ科学、名古屋大学、産業技術総合研究所の産学官連携により製品化が進められ、業界初(※)の特性を持つ熱電特性評価装置として2022年5月にリリースしました。
(※)1台で3つの熱電物性値を室温付近から高温まで測定可能な装置は業界初

Outline
産官学連携により、熱電変換材料研究を加速する装置が誕生

産官学連携により、熱電変換材料研究を加速する装置が誕生

オザワ科学は、名古屋大学、産業技術総合研究所との産学官連携により、熱電変換材料の性能評価に必要な熱電3物性(電気抵抗率、ゼーベック係数、熱拡散率)を同時に、かつ単一試料で測定可能な評価装置「OZMA-1」を開発し、2022年5月にリリースしました。

開発にあたっては、経済産業省の戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業)の補助を受け、名古屋大学の長野方星教授が熱拡散率計測における周期加熱理論と学術的支援を、産業技術総合研究所の申ウソク副研究部門長が高温環境計測の技術を担当し、オザワ科学の梶間崇宏、小川清が製品化しました。

Background
正確な計測と迅速化の両立でクリーンエネルギー開発を加速

正確な計測と迅速化の両立でクリーンエネルギー開発を加速

地球温暖化につながる化石燃料の代替エネルギー源として、工場排熱や冷暖房排熱などの未利用熱を電気に変える熱電変換技術が注目を集めています。
熱電変換材料の性能評価には、電気抵抗率、ゼーベック係数、熱拡散率の3つの物性を高い精度で測定する必要がありますが、測定原理の制約から複数の装置で計測しなければならず、時間と労力を要していました。

1台の装置で3つの熱電物性を同時計測できる「OZMA-1」は、新たな熱電変換材料の研究や、マテリアルズ・インフォマティクスを推し進め、クリーンエネルギー開発に貢献することが期待されています。

INTERVIEW

OZMA-1の開発にあたっては、経済産業省戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業課題名:単一の測定装置による熱電3物性値の同時計測可能な方法の開発)の補助を受けて進められました。
名古屋大学の長野方星教授が確立された理論を活用し、産業技術総合研究所の申ウソク副研究部門長が高温環境計測の技術や測定値の有効性評価を担当、オザワ科学の梶間崇宏、小川清が計測装置として製品化しています。関係者に開発の経緯や想いを聞きました。

Interview 01

オザワ科学 ものづくり課 小川清・梶間崇宏
  • Q1 プロジェクトが発足した経緯は?

    従来機開発後も続いた
    3物性同時測定への挑戦

    小川:熱電変換の技術開発の高まりを受け、オザワ科学では2000年12月に熱電特性測定装置「RZ2001i」を開発しました。熱起電力(ゼーベック係数)と電気抵抗率の2物性を同時に測定できる装置です。本装置の開発に携わった当社の前任者は、熱電変換材料の性能を評価するには、熱電3物性が必要であることを理解していたこともあり、「RZ2001i」開発後も熱電3物性を単一装置で測定可能な技術開発をテーマに掲げていました。

    そんな矢先、2015年に当時JAXAに勤務されていた現名古屋大学の長野方星教授が「フィルム型熱電対プローブを用いた熱電3物性同時測定法」の理論を確立し、特許を取得された情報をキャッチ。JAXAまで協力のお願いをしたところ、快諾いただけました。そして産総研の申ウソク副研究部門長からサポイン事業の活用を提案いただき、2015年に申請したのがはじまりになります。

  • Q2 なぜ熱電3物性の同時計測ができなかった?

    測定方向が異なる熱伝導率は
    別装置での計測が一般的

    梶間:熱電3物性を同時に計測するためには、試料を加熱したときに熱が流れる方向(熱拡散方向)と同じ方向で、それぞれの物性が計測されることが重要です。ところが、ゼーベック係数と電気抵抗率の測定方向は試料の「面方向」、熱拡散率は別の装置を使い試料の「厚さ方向」で測定するのが一般的でした。そのため3物性の測定方向が異なる結果となり、また装置を2台稼働させることで、必然的に時間とコストが増えてしまいます。

    小川:オザワ科学でも過去に、3物性を用いずに直接、熱変換材料の性能指数を測定する装置の研究・開発を手がけましたが、身を結ぶことはありませんでした。それだけに、1台の装置で3つの熱電物性を同時計測できるOZMA-1の完成は、材料開発に関連する業界に大きなインパクトを与えると考えています。

  • Q3 開発において苦労した点は?

    試作、検証、改良の日々
    無ければ自分たちで作る

    小川:サポイン事業は2度目の挑戦で採択。さらに終了後、約3年かけて製品化を進めたのですが、センサーやヒーター等の構造を再検討し、測定治具の製作、測定作業、そして測定データの整理(報告書作成)後、先生方へ意見照会を行い、アドバイス・助言を仰ぐという作業をひたすら繰り返し、ようやくセンサーを含めた測定治具の構造を確定することができました。また、熱拡散率の安定した測定に必要なロックインアンプという機器をソフトウェア処理に切り替える技術的な工夫を施し、コストダウンに努めています。

    梶間:ヒーターやそれを固定する治具の材質や構造の検討には苦労しました。最初はヒーターの素材に薄い樹脂を使っていましたが、高温対応のためにセラミックに変更することに。ところが既製のヒーターでは激しい電圧の変化に追従できません。そこで一から作ることになり、申ウソク副研究部門長の知見・アドバイスをいただきながら、再現性・耐久性において測定に適合したヒーターを作ることができました。

Interview 02

産業技術総合研究所 副研究部門長 申ウソク
  • Q1 プロジェクトに携わった経緯は?

    一人のユーザーの立場として
    本当に必要な装置を開発したい

    申:オザワ科学とは従来機からのご縁になります。私自身ハードワーカーではないため、「熱電材料の物性値を自動で計測できるような装置があれば」と思い、オザワ科学に相談してRZ2001iを一緒に開発しました。その後、長野方星教授の周期加熱理論の文献があることをオザワ科学の担当者に教えていただき、RZ2001iにそれを組み込むことで熱電3物性の同時測定も可能になると考え、プロジェクトに参加させていただくことになりました。

    OZMA-1の開発にあたっては、測定結果の有効性検証を主に担当。さまざまな材料に周囲加熱の条件を加えて熱拡散率のデータを計測し、その信頼性を高めるべきアドバイスをさせていただきました。開発にあたってはいつも、一人のユーザーの気持ちに立つことを大切にしており、このプロジェクトも同じ想いをもって取り組みました。

  • Q2 開発において苦労した点は?

    三者三様の装置を主張
    知的財産権の確保も重要に

    申:当初、製品化にあたっては三者三様の装置を主張していました。私は従来機RZ2001iの電極部を改造した装置のイメージ、名古屋大学は真空装置の導入、オザワ科学は筐体から新たな装置にすることを推し、どれがベストであるか議論を重ねた末、従来機の電極部に高温ヒーターを取り組む方向で決定しました。従来機タイプの採用により、RZ2001iの既存ユーザーに向けてオプション的にOZMA-1の機能を組み込むことも、将来的に可能になりました。

    加えて、知的財産権の確保も課題でした。苦労して測定装置を作っても、真似されては意味がありません。1台の装置で3つの熱電物性を同時計測する業界初の技術は、特許で守るべきだと考え、産総研のノウハウを活かして出願をサポートしました。

  • Q3 OZMA-1が貢献する未来とは?

    材料研究が拓くエネルギーの未来
    OZMA-1が果たす大きな役割

    申:熱力学における「カルノーサイクル(温度の異なる2つの熱源の間で動作する熱機関)」しかり、物理の現象というものは変わることがありません。ところが材料は、性能をドラスティックに変える力を秘めています。まだまだ研究の余地がある熱電変換材料も、近い将来に高性能な材料が発見され、ゲームチェンジが起きるかもしれません。

    エネルギー問題の解決にはシステムも大切ですが、日本が得意とする材料研究が革新的なエネルギー技術を生み出すことを個人的に期待しています。材料研究は「作る」のとともに、いかに迅速に「計測する」かも重要です。そういった点でもOZMA-1が果たす役割は大きいのではないでしょうか。

Interview 03

名古屋大学 大学院工学研究科教授 長野方星
  • Q1 熱電変換材料が注目を集める理由は?

    カーボンニュートラル実現には
    未利用熱の活用が欠かせない

    長野:石油や石炭、天然ガスなどを原料として生み出したエネルギーのうち、有効なエネルギーとして活用できるのは40%程度。残りの60%は未利用な熱エネルギーとして捨てているにもかかわらず、有効に使えるエネルギーの約半分が冷暖房や給湯に使われているというジレンマがあります。
    2020年に政府は、カーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。これ以降に社会では、その実現に向けて、未利用の熱エネルギーをいかに活用するか注目するようになったと感じます。

    中でも、熱エネエルギーを電気に変える技術は欠かすことができません。そこで必要となる熱電変換材料の開発においては、計測技術の向上が欠かせませんが、性能評価に必要な熱電物性の「熱拡散率」だけが同時に図ることができず、私自身、研究者として何とかできないかと感じていました。

  • Q2 OZMA-1開発において印象に残っていることは?

    困難な社会実装を可能にした
    強い想いと互いのリスペクト

    長野:もともとオザワ科学のことは、さまざまな計測機器を取り扱う商社としてリスペクトしていました。私は熱電物性同時計測の論文をまとめた後、それをブラッシュアップしながらも、別の研究を進めていました。そんな矢先にオザワ科学から、声をかけていただき、研究というのはすぐに注目されるのではなく、社会に必要なものであれば時が経っても役に立つものだと感じたことを覚えています。

    サポイン事業では、熱拡散率の計測における周期加熱理論と測定・解析条件に関する学術的支援を担当しました。原理は確立しているものの、高温下での計測など社会実装にまではいくつものハードルがあり、本当に実現するか不安を覚えたことも。最終的にオザワ科学が必ず製品化するという強い想いでイニシアチブを取り、実現に至りました。梶間さんが熱物性学会に提出されたOZMA-1の論文も高い評価を集められ、プロジェクトにかかわった一人としてうれしく思います。

  • Q3 OZMA-1にかける期待は?

    研究者の多様なニーズに
    企業の総合力で応えてほしい

    長野:材料研究や開発は活況で、さまざまなパラメーターをふった素材を、ハイスループット(高速かつ大量)に評価する馬力が求められます。OZMA-1は3つの熱電物性を1台の装置で叶えるため、時間や費用などを大きく圧縮し、熱電変換材料開発を加速することでしょう。

    一方で、計測分析装置は出して終わりではありません。3つの熱電物性に加え、「こんな材料も計測してほしい」「こんな条件下で使いたい」という声も挙がってくることでしょう。また、熱電変換材料は塗料やファブリックなどの形でも開発が進んでいるため、試料の対応ニーズも広がっていくことが予測されます。

    オザワ科学にはこれからも、企業の総合力で研究者ニーズに寄り添っていただきたいですし、そうすることでOZMA-1をはじめとする製品の活躍の場はおのずと広がるのではないでしょうか。

SPEC
  • 1.測定方式 電気抵抗率:直流4探針法
    ゼーベック係数:定常法
    熱拡散率:周期加熱法
  • 2.加熱炉の温度範囲 室温付近~900℃(炉冷却機構を標準実装)
  • 3.測定用プローブ 構造:4探針プローブ 熱電対:R熱電対
  • 4.測定雰囲気 酸化雰囲気、真空雰囲気、各種ガス雰囲気
  • 5.真空排気装置 ロータリーポンプ
  • 6.試料寸法 長さ13~25 mm、幅5 mm程度、厚み1 mm以下
  • 7.試料形状 電気抵抗:50 μΩ ~ 100 kΩ ※
    熱拡散率:20 mm2/s 程度以下
    ※ 試料の材質、測定プローブとの接触の影響で変わる場合があります。
  • 8.設備 電源:単相AC200V・3kVA
    冷却水循環装置:水道水
    炉冷却機構:N2 MAX20L/min at0.2MPa以上(通常使用量10L/min)
  • 9.外形寸法 本体 W1100 × D480 × H1165 (mm)
    (PC、真空排気装置、冷却水循環装置は含まず)
  • 10.重量 約220 kg
    (PC、真空排気装置、冷却水循環装置は含まず)

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